ラーメン食べに行ったらインスタ女子とお知り合いになった
ラーメンを食べに行ったらインスタ女子とお知り合いになりました。
え?詳しく知りたいって?
ちょっと何を言っているのか、意味がよく分からないという読者のみなさまの渋い顔が目に浮かぶ。
ということで経緯をご説明すると、朝からしとしとと降り続いていた雨がやみ晴れ間がのぞいたお昼時のこと。
冷たい雨がやんだとはいえ、まだまだヒンヤリとした空気が辺り一帯を包んでいたために何か温かいものが食べたいと思い立ち、以前から気になっていたちょっとオシャレなラーメン屋へ行ってみることにした。
そこでは創作ラーメンを売りにしているようで、普段1人でフラッと寄るような「こってり!」「にんにく!」「満腹!」という武骨な1杯が出てくるお店とは違い、シャランラ~♪というSEがどこからともなく聞こえてきそうなオシャレな内装に、デザインにこだわってそうな丼ぶり、季節の野菜なんかも乗っていて、私が注文した「鳥白湯そば」もまるで高級フレンチさながらのなんとも気品漂う1杯だった。
そんなしっとりとジャズが流れる店内にはやはりと言うべきか、金と時間を持て余したマダム(偏見)や、いかにフォロワーからのいいね!を集めるかに命を燃やすフォトグラファーたち(偏見)が多く見られた。
そして当の私はというと、そんなキラキラ空間にうっかり履き古したジーンズにだるだるのパーカーというハイパーリラックスファッションで迷い込んでしまったものだから場違い感が凄まじく、毛穴という毛穴から汗が噴き出す非常事態に陥っていた。
こんなはずじゃ…!ラーメン屋に来たはずなのに…!こんなはずじゃ…!!!という危機的状況に狼狽えている私は、傍から見ればさぞかし挙動不審だったのだろう。こちらをガン見している隣の席の女性とガッツリ目が合ってしまった。しかも見つめあってしまった。
津波のような侘しさに怯えている私をじーーーっと見つめる女性が何を言いたいのかはもうI Know…。そう。「コイツの隣はやべぇからさっさと食って帰ろう」だ。
これはマズい。厨房からはスープの美味しそうな香りが漂い、マダムたちは満面の笑みで面を啜っている。味は間違いないようだ。それなのに運悪く挙動不審な男の隣に座ったばっかりに、オシャレな1杯を心ゆくまで堪能する機会を失わせてしまうことになる。これはマズい。なんとか理解してもらわなければ。ちょっとした手違いでオサレ空間に迷い込んでしまっただけの者であるということを。どうにかして伝えなければ。ボク わるいニンゲンじゃないよ!ということを。
そんな脳内CPUをフル稼働させているまさにそのとき、私と女性の目の前にたまたま同時に、そして偶然にも全く同じトッピングが施された『鳥白湯そば』が運ばれてきた。それを見た私、思わず一言。
「鳥白湯そば……おいしそうですね。」
やっちまった…終わった…なにがおいしそうですねだ…。無害な挙動不審の男から、接触を試みてくる実害のある不審者にレベルが上がってしまった…。もはやこれは通報まったなし。こうなったらもう仕方ない、さっさと食ってズラがる
「そうですね…おいしそうですね。それにオシャレですね。」
え?今なんて?もしかして返事してくれた?それともいよいよ幻聴まで……いや、メッチャこっち見てニッコリしてる。幻聴じゃなかった。通報を免れた。助かった!
「なんかこう……インスタ映えしそうな見た目してますよね。」
「そう!そうなの!わたしもちょうどそう思ってたところで!写真撮ろうかと思ってたところで!」
おっ、なんかメッチャ食い付いてきた。やはりこやつもフォトグラファーだったか。
まぁ何はともあれ、これでなんとか不審者じゃないと分かってもらえたはずだ。よかったよかった。
そのあとはエンジンがかかったフォトグラファーからインスタの極意をこれでもかと教わった。どの角度から撮ると立体感が出るのか、光源はどこにあると被写体が映えるのか、自分の影が写らないようにするコツは、食べ物の写真をアップするときはグルメモードで加工して……。それはもう授業料を払ってもいいくらいにしこたまテクニックを披露してくれた。
「うん!これでキミも今日からインスタマスターね!(テンションが上がって口調が変わっている)」
「そ、そうですね!教えていただいたことを活かせばたくさん『いいね!』が貰えそうですね!」
「それじゃあ!ここまでコツを学んだところで、さっそく今撮った写真をインスタに投稿してしましょうか!」
「あ、自分インスタやってないんで」
「…え?」
そうだ。思い出した。そういえばインスタやってなかったわ。
そのあとはラーメン食いながら3000回くらいフォトグラファーに「アカウント作ろうよ!」って言われたけど適当に流して帰ってきました。
あ、インスタ上達したい人は言ってくれればコツとか教えますよ。報酬は鳥白湯そばで。