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【映画レビュー】『スパイダーマン:スパイダーバース』はド迫力の大画面と立体音響で楽しむ超贅沢なコミックでした【ネタバレあり】

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出典:映画『スパイダーマン:スパイダーバース』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ

 

スパイダーマンって1人だけでもスーパースターと言っても差し支えないほどの人気者じゃないですか。言ってしまえば怪人・蜘蛛男なわけで、バイクに乗って颯爽と現れる正義のバッタに倒されてしまいかねないヤツなのに、今や世界中で大人気のスーパーヒーローじゃないですか。

そんなスパイダーマンがもしも同じ時間、同じ場所に複数人存在したらすごいことになるんじゃ?スーパーヒーローとスーパーヒーローで化学反応が起こるんじゃ?

こんなドリームマッチ的な想像をした人のための映画、あるわけないと思うでしょう?でもね、あるんだなぁ、これが。

ということで今回はいろんな時代のスパイダーマンが一堂に会する夢のような映画の感想です。どうぞよろしく。

 

スパイダーマンが5人もいたら負ける気がしないよね

本作の主人公はブルックリンに住む、ごく普通の中学生マイルス・モラレス。

マイルスは成績が優秀であることから名門の進学校に通うことになるのだが、いまいち環境にも馴染めず、膨大な量の課題に疲弊する毎日。仲の良い友人たちが通う地元の学校に通いたいと希望するも、マイルスに期待を寄せる両親はそれを許してくれない。

そんなマイルスの心の支えは彼の唯一の理解者である叔父のアーロンとスーパーヒーローとして活躍するスパイダーマンなのであった。

そんなある日、叔父のアーロンと人気のない高架下でグラフィティに興じていると不思議な見た目をした蜘蛛に噛まれてしまうのだが、その日を境にまるでコミックのなかのスーパーヒーロー、スパイダーマンのような特殊能力を身に着けてしまった。

その原因を探るべく、もう一度あの高架下へ向かうと、そこではなんとスパイダーマンがグリーンゴブリンと戦っていた。キングピンの悪事を止めるべく奮闘していたスパイダーマンだが、宿敵であるキングピンによって殺されてしまう。

そんなスパイダーマン(ピーター・パーカー)の死の直前に、キングピンの悪事を阻止するための道具を預かっていたマイルスはピーターの遺志を継ぎ、新生スパイダーマンとして生きることを決意するのだが……というところまでが本作のあらすじ。

 

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身軽なスパイダーマン…でも下半身をよく見るとスウェット

 

これだけを見ると「えっ!?スパイダーマン死んじゃったじゃん!!」となるのだが、本作の面白いところはここから。

まず、ピーターの墓の前で悲しみに暮れるマイルスの目の前に現れた別時空のピーター・パーカー(劇中ではピーター・B・パーカー)がマイルスの生きる時空でみんなに慕われていたピーターの人物像とは真逆のダメなオッサンでそのギャップでひと笑いできるのだが、マイルスの純粋な心に触れ、彼を一人前のスパイダーマンにするべく訓練しているうちに徐々に元のヒーローらしいカッコいいピーターに戻っていく。

このピーターがカッコいいオッサンに戻るまでの過程のなかで、マイルス自身も憧れのピーター・パーカー(生きている時空こそ違うが)から直々に指導を受けられているという構図になるのが、なんともグッと来るものがある。

 

このほかにもヒロイン的な立ち位置のグウェン・ステイシー(スパイダー・グウェン)や、ハードボイルドなスパイダーマン・ノワール、ロリ系女子高生のペニー・パーカー(とパワードスーツの”SP//dr”)、そしてマーベルのキャラを動物化したパロディ世界の住人であるスパイダー・ハムなど魅力的なスパイダーマンたちがキングピンの仕業で歪んでしまった時空を越えてやってくるのだが、このスパイダーマンたちはいずれも派生形のコミックスに登場する実在するキャラクターなのでマーベルファンであればスクリーンで伸び伸びと動く彼らの姿は必見だろう。

 

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個性豊かなスパイダーマンたち

 

ちなみにスパイダーバースにはこのほかにも別時空で活躍するスパイダーマンがまだまだ登場する(原作では100人近いスパイダーマンが登場する)のだが、このなかにはみんな大好き東映版スパイダーマン(通称:ダーマ)も登場する。もちろん、彼の愛機の巨大ロボ『レオパルドン』も登場するのだが、残念ながら本作ではダーマの登場は叶わなかった。

が、製作のソニー・ピクチャーズいわく「今回のスパイダーバースの評判が良かったから次回作ではダーマも出すわw」との声明も出しているようなので、個人的にはダーマの活躍に超絶期待している。

 

※名言を生み出しまくる男、スパイダーマッ!の概要はこれらを参照。

スパイダーマッとは (スパイダーマッとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

スパイダーマッの全台詞集とは (スパイダーマッノゼンセリフシュウとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

 

斬新な映像に目が釘付け

本作の最も特徴的なことと言えば、まるでアメコミの世界がそのままスクリーンに落とし込まれたかのような表現の数々。

本作は基本的には全編3DCGアニメで描かれるのだが、監督も「コミックの中を歩いているかのような雰囲気を求めており、実写ではできない手法でストーリーを伝えることを目指していた」と述べている通り、場面場面でわざと手描き風のコマ割りのようなシーンを入れたり、心のなかの声が吹き出しで出たり、スパイダーセンスが発動する様子を目に見えるように表現して見せたりと、オノマトペを多用することによってコミックの世界がそのまま飛び出してきたかのような賑やかさがある。

しかも各スパイダーマンが自己紹介するときにコミックの表紙からパラパラとページがめくれるだとか、昔の印刷技術をあえて再現して擦れているコマがあったり、印刷ミスっぽい表現まで混ぜ込むといったこだわり具合。

 

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怪しい気配を感じるとスパイダーセンスがビビビと反応する

 

そして肝心のアクションも3DCGの最新技術のおかげでぬるぬる動いたり、キメるところではストップモーションのようにコマ送りっぽい見せ方をしてみたりともう縦横無尽感が半端ないんすよ。

しかも本作のヴィランは実写版でもお馴染みのドクター・オクトパスやグリーンゴブリンはもちろん、コミックスからもキングピン、プラウラー、トゥームストーン、スコーピオンといったスパイダーマンの宿敵たちが登場するわけで、本当にスパイダーマンが好きじゃないとここまで熱意を注げないんじゃないだろうか。

この細部までこだわり抜いた映像を作り上げるにはやはり並々ならぬ苦労があったということも明かされており、5人のスパイダーマンがスクリーンを派手に動き回る様子を観に行くだけでも正直、1800円以上の価値があると思う。

 

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ここ挟まってるペニーちゃん可愛いんすよ

 

じゃあ肝心のストーリーはどうなんだと言うと、これもやっぱり高評価で展開としてはごく普通の未熟な少年がヒーローとして成長していく過程を描く王道中の王道なのだが、起承転結がハッキリしていて実に分かりやすく、素直に感情移入ができる熱くなれるヒーロームービーとなっている。

いろんな時空から集まった正真正銘のスーパーヒーローたちに囲まれて、まだまだ未熟なマイルスがピーター・パーカーの意志(亡くなったピーターの遺志と師匠として傍にいてくれたピーターの意志)とスパイダーマンたちの想い、そして大好きな叔父の死と父からの心からの愛の言葉を受け取って一人前に成長していく様子ががまさに「ヒーローは遅れてやってくる」という王道の展開で、最高に熱かったし本当に感情移入できる。スパイダーマンの通過儀礼(?)であり独り立ちの象徴的なビルの屋上からのダイブのシーンもグッとくるものがあったし。

 

それに自分が英雄として称えられている時空に来たピーター・B・パーカーも様々な葛藤を抱えつつもしっかりとヒーローとしての本分、そしてマイルスの師匠としての役目を果たそうとする中年のオジサンの奮闘劇(輝かしいあの頃の自分への復活劇)は完全に大人にブッ刺さるヤツです。

これ社会に疲れ果ててる大人であるほどグサーーッとくるやつ。という意味では本当に男女問わず、年齢問わず、そしてマーベル作品を知っているかどうかも問わず、万人にオススメできる物語なんじゃないかと思っている。

え…?万人にオススメは言い過ぎだって?そう?ただまぁ、少なくとも私は上映時間が2時間あるとは思えないほどあっという間にエンディングになってしまうくらいには没頭できたので、ここまで読んで「面白そう!」と思ってもらえたなら間違いなくオススメです。

 

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このスパイダーマン大集合的な1シーン、実はメイ叔母さんちです

 

そしてあともう少しだけキャラの魅力について語らせてもらうと、前述もした通りスパイダーマンそれぞれに物語があって、機会があれば今回出てきたスパイダーマンのぶんだけでも原作コミックを買って読んでみようと思っているのだが、そのなかでも何人か特筆すると、まずピーター・B・パーカーの人物像を本当にエモい。

自分の時空ではヒーローとして活躍するもその後は事業に失敗し、MJには逃げられ、やることなすこと上手くいかず擦り減っていってしまってすっかり覇気もなくなった中年太りのオッサンだったのが、マイルスの時空に飛んできたことでヒーローとしての自覚や輝きを取り戻していくまでの展開が本当にいい。

まぁ、擦り減っているとは言っても根っから腐ってしまったわけではなく、例えばマイルスと会った直後には子供はキライだと突っぱねながらもマイルスの泣き落とし作戦に根負けして要求をのんでいたり、素直にマイルスの才能を認めて師弟関係を築き上げていくところにピーター・パーカーの善人性がよく出ている。

マイルスとオッサンピーターの関係性は2時間の枠に詰め込むには十分すぎるくらいによくまとめてくれたとは思うけれど、本当はこの2人の師弟関係をもっと掘り下げた物語でもう1本映画を作ってもらいたいくらいだ。

 

それにスパイダー・グウェンとしてマイルスといい関係になりかけるグウェン・ステイシーも最後のほうでは時空を越えてマイルスとテレパシーで会話している描写があったことから次回作への期待も膨らむところだが、グウェン自身も目の前で友人を亡くしていたり、それがトラウマとなって気を許せる相手がいなかったりと、何かと不憫な彼女がマイルスに少しずつ気を許していくまでの様子をもっとじっくり見たかったなぁと思えるほどに魅力的なキャラで。

クールビューティーなグウェンがもっと喋って、動いて、そしてちょっと色恋もあるようなストーリーをじっくり見たいんで、配信サービスとかBDとかでもいいからどうにかしてグウェンに焦点をあてた作品を映像化してくれないかなぁ…。

 

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日系アメリカ人の女子高生、ペニー・パーカーちゃん

 

そして最後にロリっこ感のある女子高生のペニー・パーカーもいわゆる「萌え」が前面に出ていてめちゃくちゃキュート。ペニーの描かれ方は他のスパイダーマン以上にアニメ(というかマンガ?)っぽくって、動きも良い意味であえてCG感が殺されていて非常にトリッキーなため一際目を奪われた。

そんな彼女も始めのうちはマイルスに対して辛辣な発言をすることもあったけれど、戦いを通じて最終的に「(スパイダーマンという特殊な存在が)自分1人じゃないとわかってよかった」と言って自分の住む世界に帰るところは涙腺が緩みそうになってとても危なかったんで、いつ涙腺が決壊してもいいように自宅でじっくり観れるように是非ともペニーを主軸においた作品を映像化してほしい。

これはペニーちゃんに限った話ではないのだが、普段はマスクを被り、決して自身の正体は明かさず、サポートしてくれる人もなく、一人で戦う孤独のヒーローであるスパイダーマンが別の時空では自分と同じように戦っているスパイダーマンたちがいることを知って登場時の自己紹介の名乗りが「この世界でただ1人のスパイダーマンだ」から「スパイダーマンは1人じゃない」と変わるのもベタな演出なんだけどすごく良かった。

てなことで、あれもこれもと言及していると延々と終わりが見えてこないんでそろそろまとめに入りたいと思います。

 

気になったら今すぐ観に行くべし

繰り返すようですが本作の物語は王道中の王道でとても分かりやすく、老若男女問わず楽しめるようになっているので少しでも気になっているのであれば是非とも劇場へ観に行くことをオススメします。

また、マーベル作品お約束のエンドロール後のおまけ映像は今回もしっかりあるので最後まで離席厳禁。このおまけ映像は是非とも自分の目で確かめてほしいので詳細な言及は避けますが、あの子供の口喧嘩のようなくだらない内容と昔のスパイダーマンの肘から先しか動かないというシュールな様子が最高でした。

ああいうコントみたいなおまけ映像マジで大好き。それに劇中で言及されていたスパイダーマンが歌うクリスマスソングもエンドロールで流れるのでおまけ映像まで退屈しにくいように配慮してくれている親切さ。たまらん。

 

それにスタンリーのカメオ出演もしっかりあってよかったなぁと。

今回はスタンリーはおもちゃ屋さんの店主なんですけど、マイルスがスパイダーマンのコスチューム(なりきりセットみたいなやつ)を買った時に後ろの張り紙に「返品不可」と書いてあったのも実はギャグ的な要素と一緒に「大いなる力には大いなる責任が伴う」というスパイダーマンを語るうえで欠かせないキーワードも遠回しに含んでいるように思えて、ほんの一瞬だったけれど深いシーンでした。

ということで、物語の出来の良さもさることながらデザインや動き方の異なる様々なスパイダーマンたちが1つの画面に集まる奇跡のような傑作を是非、ご自身の目で確かめてみてほしいなと思います。