表現の自由は時として言葉の暴力にもなり得るんだよ
タイトルは真面目っぽいけど内容はすごく不真面目です。
「髪を切るついでにちょっと染めてみない?」
そう言われたのがつい先日。親しい友人が美容師ということもあり月に1回程度、閉店後にカットモデルと称して無料で髪を切ってもらっているのだけれど、何かと実験台にされることも多い。
とはいえ、私も見た目の変化にはとてもワクワクするタイプの人間なので、髪型や髪色がコロコロと変わっている。そのあたりは今の会社は規則の緩いところで本当に良かったと思う。
で、今回の実験の結果はこんな感じ。
念のため断っておくが私は男だ。
こんなとろけそうな目で世の男性を誘惑するような小悪魔系ではない。
私はただ、自分の髪色に一番近い写真でかつ、すぐ目に入ったこの子の画像をお借りしただけである。
…あれ?もしかして誘惑されてる?
話を本題に戻すと、今の私の髪色はグリーンアッシュと呼ばれる状態らしい。
その美容師いわく、
「エメラルド5グラム、ブルー3グラムを混ぜてトーンの低いアッシュ系にしようと思ったけど、髪質の関係でブルー系のグリーンアッシュっぽくなっちゃった。テヘペロ。」
ということらしい。
正直なにを言っているのかほとんど理解できなかったけど、うっすらと残る記憶が確かであればこんなことを言っていたような気がする。
「そこのお姉さ~んちょっとお茶しな~い?」くらいの軽い感じで来るもんだから「別にいいよー。」とは言ったけれど、まさか緑茶を飲み干したときのコップの底に残る薄緑の液体みたいな色になるとは思ってもいなかった。
あと念のため断っておくが私はお姉さんではなく、お兄さんだ。
しかしその場でのファーストインパクトこそ強烈だったものの、だんだん見ているうちになんだか好きになってきて今ではすっかりお気に入り。
なんならもっと目立つくらい明るくてもいいのかもしれないと一瞬思ったけど、そこは一応社会人なりのブレーキが掛かって思い止まった。
ファンタジーもので悪の親玉に捕まった昔の仲間が怪物となって主人公に襲いかかるんだけど、その寸前で攻撃が止まって「おいっ!おまえまさか昔の記憶が...!?」「ウゴゴゴッ...!」っていう自我が少し残ってましたみたいな感覚。わかります?
翌日、珍しく髪をしっかりセットして分かりやすく髪切りましたアピールをした状態で職場へ。案の定、数名の同僚が気付いてくれて「イメチェンしたねー!」「誰かと思ったー!」「茶髪より全然こっちのほうがかっこいいよ!」「なんか東京っぽい(笑)」と評判は上々。お褒めの言葉を多くいただきました。
ということで自身も気に入っている髪色は職場でも高評価だったため、これはもう間違いないと。完全に今の私はオシャレだと。そう確信したので、満を持して彼女にも見せてみた。
その結果、
「ほうれん草をいっぱい食べた後のウンコみたいな色してる」
と。
ウンコて。
いやいや……ウンコて。(2回目)
これは彼女の悪い癖である。
その脊髄から声出すのやめろって。
完全に反射的に思ったことが口から出ちゃってんじゃん。「熱ッ!」「痛てっ!」「ウンコみたいっ!」って彼女は思ったことがすぐに口に出ちゃう。
仮にもさ、我々は高度な知能を持った動物なんだよ?何千万年という進化を経て一大文明を築き上げるほどの知的生命体なんだよ?
そんなとても賢い生き物なんだから思ったことは一度、脳に落とし込んで考えてみようよ。
パッと見た瞬間に脳をフル回転させれば、わずかコンマ数秒で正しい表現の仕方を考えることだって我々人間ならできるはずでしょう。
(うわっ!ウンコみたいな色の頭だっ!……いや、しかし待てよ?彼は人間だ。それもそこそこ綺麗好きなタイプの人間だ。そんな彼がだ。果たして頭部にウンコを乗せて颯爽と現れるだろうか?いいや、それはないだろう。仮にそこまで綺麗好きではなかったとしてもだ、頭部にウンコを乗せて街へ繰り出す人間を私は見たことがない。だとすると、あの頭部にあるものはウンコではなく髪の毛ということになる。しかしどうだ、私の語彙力・表現力ではあの髪の色を”ほうれん草をいっぱい食べたあとのウンコみたいな色”というほかに形容する術がない。ウンコ色というのは人に向かって使うには適切な表現ではないのかもしれない。しかし思ったことを正しく伝えるのもまた、時として必要なことではないだろうか。……ええい!ままよ!)
ええい!ままよ!じゃねぇよ。
ダメだ。もう私の脳内の彼女はどう転んでもウンコに結び付けてこようとする。
しかしそこでただ言われるだけで黙っているような私ではありません。なんていったって職場でお墨付きをもらい、自身も気に入っている髪色なのです。
そこは毅然とした態度で、前言撤回を要求。
すると彼女、
「野菜をたっぷり食べた後のウンコみたい」
ちがう。気になっているのはそこじゃない。
おかしいだろ!なんでほうれん草が不服なんだと思ったんだよ!気になっているのはどう考えてもウンコのほうだろ!
そもそもさ、食べたものの色がそのまま出ちゃうってカタツムリと一緒じゃんか。
小学生のころにクラスで飼っていたカタツムリにニンジンをあげたらオレンジ色の物体を排泄して、男子数人でめちゃくちゃテンション上がったのを今でも覚えてるよ。
え、なに?カタツムリが罠にかかっていたところを助けたカザマの前に「あなたの彼女になってあげましょう」って現れたのが今の彼女なの?
だとしたらもう、いつ助けたカタツムリのことなんだかサッパリ分からないよ。
そもそもカタツムリが罠にかかっているところに遭遇した覚えがないよ。
はぁ……。せっかくなら鶴を助けたかった。