【映画レビュー】『マイル22』はド迫力の映像と予想を裏切るストーリーが快感【ちょっとネタバレ】
予告編を見て結構楽しみにしていた『マイル22』をようやく鑑賞してきました。
「おー!なるほどー!」と純粋に楽しめる部分もあれば、「んー?これ必要か?」と首を傾げる設定もありつつ、最終的には綺麗にまとまっている良作でした。
じゃあどのあたりが楽しめて、どのあたりで首を傾げたのか、簡単にまとめたのでご紹介しましょう。
では、以下感想です。
リアリティのあるフィクションは忖度の対象になるのかも
まず簡単なあらすじをご紹介すると、とある国家にて世界を揺るがすほどの危険な物質が盗まれ、その行方を知る重要参考人を始末するために武装勢力が次々と送り込まれる。
一方、CIAの機密特殊部隊は重要参考人を亡命させるためにアメリカ大使館から空港まで護送するミッションにつく。その距離なんと22マイル(35.4km)。
果たして、22マイルのあいだ武装集団から男を無事に護送することができるのか!?オーバーウォッチ作戦の結末や如何に…!?
というのが大まかな話の流れ。
ストーリーとしては実に単純明快で「大事な人を危ない人たちから守ってね!」というだけの話なので、割と深く考えず観ることができたかなぁというのが正直な感想。
まぁ、言い方を変えるとテンポが早くて細かい部分を理解するのを放棄しただけなんだけれども。割と裏設定とかいろいろありそうだったけど約90分の映画にあれ以上詰め込んだら収集つかなくなりそうだもんね。
とは言え、登場する特殊部隊はそれぞれが特殊なスキルを持っているという設定なのだが、決してアメコミよろしく「異次元の超絶エネルギ~~!!」みたいなことではない。
もちろん「近未来のスーパー便利アイテム~~!!」みたいなもので無双するわけでもなく、次から次へと襲い掛かってくる脅威に四苦八苦しながら立ち向かっていく様はグッとくるものがあるので、ストーリーの良し悪しはひとまず置いておくとして純粋に映像を楽しむ分にはなかなか良かったんじゃないだろうか。
市街地でドンパチやるのは迫力があって凄い
ちなみに劇中の特殊部隊は、QRFという軍人によって構成された実在する部隊がモデルになっているそうで。本作の監督は史実を元にした作品に定評があるようなので、このあたりのリアリティにはこだわりがあるのかもしれない。
このリアリティにこだわりがある(かもしれない)というのは実は本作の宣伝をするにあたってもいろいろと弊害があったようで、例えば本作の物語は「インドカー(Indocarr)」という架空の東南アジア系の国が舞台となるんだけども、実は2019年4月にインドネシアで大統領選挙があるんですよね。
で、そのインドネシアの大統領選挙の候補者のうちの1人に「Make Indonesia Great Again(インドネシアを再び偉大に)」のスローガンを掲げて、自身にたてつくメディアには噛み付きまくって徹底的にやりあう姿勢を見せるツワモノがいて。
そんなわけで、たまたま似たような感じの国名になっちゃった(意図的に似せた?)ことに配慮してあんまり大っぴらに宣伝できなかったという噂があったり、冒頭にご紹介した「世界を揺るがすほどの危険な物質」ってのは実は「セシウム」のことなんですけど、セシウムっつったら日本では非常にセンシティブなワードなわけで、やっぱり堂々と「セシウムのせいで世界がヤバイ!」とは宣伝できなかったのかもしれない。
まぁ、劇中には普通に日本の原爆について触れるシーンがあるんだけどね。
シリアスに見せかけたギャグ映画だった可能性
前述した通り、本作は視覚的に楽しむのであればなかなかのものである。
これは監督のピーター・バーグも「とにかくエンタメ要素が高いアクションにこだわった」と語っているように、銃撃戦や肉弾戦の臨場感、アクションのカッコよさは痺れるものがある。
ここでもリアリティにこだわる監督だからこその演出として、なんと銃撃戦には本物の銃器と4万発もの弾薬が使用されていたらしい。そりゃあ耳がビリビリするほどの迫力のある音声と視覚を圧倒される迫力のある映像が生み出せるわけだ。
一方、登場人物たちについてはどうも様子がおかしい。
まず、マーク・ウォールバーグが演じるジェームズ・シルバのクセがまぁ~~強い。
ジェームズは常に怒り狂っている(イライラしている)ニトログリセリンのような男で、常にそれを爆発させぬよう自身をコントロールしているのだが、なんとそのコントロールの方法が「爆発しそうになったら腕に巻いた輪ゴムをパッチンパッチンすることで気持ちを落ち着ける」というもの。マジで言ってんのかよ。
しかも結局、怒りが爆発してて輪ゴムの意味なし。パッチンパッチンしながらドチャクソ怒りまくってる。もはやコントかよってくらいメチャクチャなヤツなんですわ。
んでもって任務をミスった女性部下のアリスに「てめぇこの作戦にいくら掛かってると思ってんだ!」「やべぇ物質なんだぞ!?やべぇんだぞ!?」「まんまとかく乱されやがってクソが!」とまぁ罵声を浴びせるのなんのって。
そのうえ怒りで周りが見えなくなるのか、そのままアリスを追いかけて女子シャワー室にまで侵入。しかもこれどうやら日常茶飯事らしい。実に羨ま……けしからん。
そんなとにかく怒りの収まらないシルバは危険な物質(セシウム)のありかを示すファイルを一生懸命、頑張って解読している女の子に対しても「仕事がおせぇよ!!!」とガチギレしてます。コイツマジやべぇ。
一方、そんな言われたい放題(しかもシャワーまで覗かれて)のアリスはこれを機に心がポッキリいっちゃって特殊部隊を辞める……なんてことはなく、コイツはコイツでやべぇやつだった。
何かあればすぐ「F〇CK!」と感情が剥き出しになっちゃうニトロ系女子のアリスは事あるごとに「F〇CK!」「ファ〇ク!」「マザファ〇キン!!!」とFワード三段活用を巧みに操り、なんともまぁ自己表現が豊かなこと。
そんなアリスには子供がいるのだが、お子様の教育上、Fワード連呼はマズいっしょってことになってて電話にはFワードを吐いた瞬間に通話が終了する仕組みが搭載されている。
けれどそこは絶賛、夫とゴタゴタしている最中のアリス。夫と通話しているとだんだんと気持ちが高ぶってきて、気持ちが高ぶってくるとどうしてもキメ台詞を言いたくなっちゃう感情豊か系女子な彼女は案の定、Fワードを吐き出し電話強制終了。
クソがぁぁぁぁぁぁぁ!!!と怒りをぶちまけるアリスは終いには上司に八つ当たりをする始末。なんだコイツら…(ドン引き)
こんな綺麗な顔して発言は過激なアリス
あれ?これもしかして特殊(な問題点を持ったヤツらが集まった)部隊なの?こんな人たちに国家機密の超重要な任務を任せて大丈夫なの?
きっとそう思うのは我々視聴者だけじゃないはず。だって護衛されるリーさんの身にもなってみなさいよ。次から次へと襲い掛かってくる殺し屋たちから護衛してくれるはずの奴らがゴムパッチンブチギレ男とかFワード連発ブチギレ女とかなんすよ。これじゃあリーさんの身が危うい…!
と思ったら全然そんなことなかった。リーを演じるイコ・ウワイスという人物は数多の格闘技にも精通したキレッキレのアクション俳優なんだそうで、劇中でもまぁ強いのなんのって。往年のブルース・リーかよってくらい見事なアクションをかましてくれるわけなんですわ。えーーーっと……これさ……護衛する意味ある?
いざ護衛が始まり、次々と送られてくる殺し屋たちとの死闘により仲間が殉職し、ドンパチしまくって街が大変なことになるのを見るたびに思うわけです。
「これリーが1人でサクッと移動したほうが良かったんじゃないか…」って。
見よ!この強靭な肉体!……護送する必要ある?
いざ劇場の巨大なスクリーンで一連の流れを観ていると、その迫力と勢いでなんかすごいことになってるなぁと惹き込まれるんだけれども、こうして後で思い返して文字にしてみるとギャグ漫画にしか見えねぇなこれ。
映画館で見るべき映画でした
ということで何度も述べている通り、アクションシーンや銃撃戦の迫力はとにかくスゴイ。これは映画館の大画面と立体音響で楽しむのと、自宅のテレビで観るのとでは大きな差が出るんじゃないだろうか。
それに本作のキャッチコピーでもある「世界をダマす 究極のミッション」の意味を劇場に確かめに行くだけでも1800円を払う価値はあると思う。これには思わず「そう来たか!」と唸ってしまったし。
もっとも、全編が94分という上映時間は短めの本作はよく言えば「設定てんこ盛りでテンポが早くて飽きない」のだが、悪く言えば「詰め込み過ぎて急ぎ足」であることも否めない。
仕事終わりの疲れた頭で観に行くとボーッとしているうちに重要なフラグなどを見逃してしまうかもしれないので、ぜひ休日などの頭がスッキリしているときに観に行くことをオススメする。ただでさえみんな早口なのに、ホントに展開が早くて置いて行かれそうなシーンとかもあるし。
てなわけで、気になる方は是非劇場へ。