【映画レビュー】『来る』が異色のホラーで期待以上に面白かった【ネタバレあり】
出典:映画『来る』公式サイト
松たか子ってバラエティ番組映えする女優ですよね。リアクションも大きいし、大口開けて笑ってくれるし、平気で変顔もするし、空気を読むことにも長けているし。
表情や仕草が豊かなのは舞台女優であることも関係しているのかもしれないけれど、きっと素でいい人なんだろうなっていう、人の良さみたいなのが滲み出ているもんで、個人的にはすごく好感度が高かったりする。
そのうえ、これまた個人的に大好きな岡田准一が主演ということで公開前から期待していた本作、思った以上に異色のホラー映画で後味の悪い不思議な作品でした。
以下、感想です。
分からないことだらけな不気味さがクセになる
まずは簡単にあらすじを。
物語は田原(妻夫木聡)と彼女の香奈(黒木華)が田原の実家で行われる祖父の法事へ出かけるシーンから始まる。後に2人は結婚し、愛娘の知紗が誕生する。
これをきっかけにイクメンパパとして意識高い系ブロガー(意識が高いだけ)になる田原だが、そんな田原のまわりである日を境に会社の後輩が不審死するなど怪奇現象が次々と起こり始める。
いよいよ自身と妻の香奈、そして知紗にも怪奇現象が起こるのではないかと不安を感じ始めた田原はとある伝手からオカルトライターの野崎(岡田准一)のもとへ相談に訪れる。
相談を受けた野崎は取材を兼ねて、霊能力者の素質を持っている知り合いのキャバ嬢の真琴(小松菜奈)とともに怪奇現象について調べ始めるのだが、実は田原にとり憑いている「何か」は想像以上に恐ろしいもので…。
というもの。
さて、本作を観終えた後に知ったのだが、実は本作には原作小説があって角川のホラー文庫で出ている澤村伊智の『ぼぎわんが、来る』というミステリーホラー小説が映像化されたものだった。
監督は『告白』『渇き。』など数多くの話題作を撮った中島哲也。
『下妻物語』とか『嫌われ松子の一生』なども手掛けている監督で、この監督の撮る映画は作風が似ていると言うか、映像から漂うあの独特の雰囲気が結構好きだったりする。
そしてそれは本作からも感じられて、あの独特の間みたいなのが随所に見られたので個人的にはなかなか満足感のあるものではあった。
ちなみにYoutubeなんかでアップされている予告映像では『あの「告白」から8年』っていう煽りコメントが入っていて、『渇き。』がなかったことにされていて笑った。
映画『来る』【ロングトレーラー】
で、本作は原作小説のタイトルにもなっている『ぼぎわん』という謎の脅威(幽霊?亡霊?妖怪?)にひたすら怯え続けることになるのだが、結局このぼぎわんが一体何だったのかは明かされない。
この謎のままフェードアウトして終わる感じがもうモヤッとするのだけれど、これがまた絶妙に物語の雰囲気にマッチしていて、最後の最後まで気味が悪いまま、モヤッと感が晴れぬまま劇場を後にすることになるのも、また本作の楽しみ方の1つなんじゃないかと思った。
1人で観に行った人は他の人が書いているレビューを読んで答え合わせするも良し、複数人で観に行ったのならそれぞれの解釈をのんびりコーヒーでも飲みながら語り合うのも良し。答えのない物語は観終わったあとも楽しめるのがいいよね。
キャスト陣の演技がよかったなぁ
あのねぇ、これ本作をレビューしている人みんな口を揃えて言及しているんだけれど、こればっかりは私も言及せざるを得ない。
妻夫木聡のクソ野郎っぷりがすごい!!!
おっと間違えた。厳密には妻夫木演じる田原という男のクズっぷりがすごい。
前述の通り、娘が産まれたのをきっかけにイクメンパパっぷりをアピールすべく育児ブログを書き始めるんだけど、ブログに書いてあることと実際にやっていることの落差がすごいのなんの。ただでさえ幸薄そうな黒木華が目に見えてやつれていく…。もうやめてあげて!
ブログのアクセス数が増えれば増えるほどに自己顕示欲が増していき、上っ面だけまともぶっている妻夫木聡を見ていると、ふとした瞬間に、日々ブログを更新する私ももしかしたら身近な人にはこう見えているのかなぁ…なんて想像してしまった。
いやいや、でも私はこんなクズ人間じゃない!(と思いたい)
おまえなんかとっととやられちまえ!
そしてまぁ、黒木華の地味っぽい、薄幸の女性の演技がハマってたなぁ。
2018年12月現在放送中のドラマ『獣になれない私たち』で演じているネトゲ中毒ニート女よりも、『ビブリア古書堂の事件手帖』とかの物静かな女性の役のほうがやっぱ似合うよなぁ。(もっとも、黒木華本人はかなり明るくて、フリートークも上手いし、リアクションも大きめ女性なのだが)
その黒木華が内に秘めた狂気を解放する瞬間がまた、今までの溜まりに溜まったものが爆発した感じが出ていてすげぇいい演技してました。物語が進展するためのトリガーでもある役どころの黒木華。存在感抜群でした。
似合うよなぁ…こういう役
一方、期待していた岡田准一は意外と存在感が薄かったというか、もっと活躍する役どころなのかと思っていただけに肩透かし感が否めなかった。
ここ最近はドラマにしても映画にしても「爽やかクソ真面目」だったり、「超絶正直お兄さん」だったり、「男のなかの男!ザ・漢!」だったりと役のイメージが固定され始めていたところの柄物シャツ、ボサボサの髪、無精ひげ、ニコチン中毒、気怠そうな立ち振る舞いという、いかにも売れてなさそうなゲスライター役だったもんで、もっと傍若無人っぷりを発揮してくれても良かったのでは…と思ってしまった。いやまぁ、カッコよかったけどね。
もっと活躍してほしかったけど、まぁまぁいい役どころだったかな
そして何よりも、誰よりも目立っていたのはやっぱり松たか子。
某雪の女王よろしくありのままの姿を見せた結果、まさかの完全無欠の最強霊媒師で笑ってしまった。1人だけ格が違うやんけ。
登場人物たちに襲い来る「何か」に対抗するために全国各地の凄腕の霊媒師たちを集めるんだけど、蓋を開けてみれば松たか子が最初からやってりゃ良かったんじゃ…?と言いたくなる結果に。
これには劇場内の観客全員が、
と思ったに違いない。
あと個人的に気に入っているのが、岡田准一が買ってきたビールを勝手に飲むところとか、しーんとなったところで唐突に岡田准一にボディーブローを決めるところとか、何かと超真面目なシーンで急に笑わせようとしてくる松たか子。あそこだけリピート上映してくんねぇかなぁ。すげぇ好きだわ。
あと個人的には柴田理恵がなかなか渋い演技しててすっげぇ好きだった。
なんかあの如何にも胡散臭そうなのに実はすごい霊媒師でしたみたいな人物像、既視感がすごい。絶対、現実世界の誰かをモチーフにしてるでしょ。
2000年代初期のオカルト番組でよく呼ばれそうなあの独特の胡散臭いキャラ、もっと活躍してほしかったなぁ。
ちなみに、柴田理恵を筆頭に霊媒師集団もなかなかに良い演技していて、いよいよ「何か(あれ)」と最終決戦だ!つって招集された霊媒師たちのなかにピクニック気分のババアたちがいるんですよ。なんかすげぇ楽しそうにしてるじゃねぇか!遠足じゃねぇんだぞ!気ぃ抜くなよ!とか思ってたら乗ってたタクシーが事故って呆気なくアボンするんですよね。
んでそれを知った霊媒師のジジイたちが、これから対峙する「何か」の強大な力を前に「こりゃあ、別行動の方がいいかもしれんぞ。誰か一人でも辿り着いたら御の字やろ」つって気合い入れるんですけど、ジジイたちカッコよすぎん?
普通なら逃げ出したくなるようなシチュエーションでしょう。もう明らかにヤバそうなニオイがプンプンするじゃん。なのに霊媒師のプライドをかけて現場に向かうプロたち。マジで職人の魂を見せつけてくれたぜ…。アンタが大賞だよ…。
ちなみに「何か」を迎え入れるための箱に選んだマンションの周りには霊媒師だけじゃなくエンジニアや、ちょっと霊感の強いだけのJKなんかもいて異種総合格闘技の様相を呈してした。超シュール。
まとめたいけどまとまらない
ということで、観終わったあとのあの気持ち悪さというか、モヤッと感と文字で伝えきるにはなかなか難しい物語でした。
ジャパニーズホラー的なドロドロ後引く怖さでもないし、ハリウッド的なワーキャー騒いでうるさいだけのホラーというわけでもない。なんというかこう……すごく不思議な映画だった。(語彙力の無さ)
強いて言えば、現代社会の闇というか、人間関係のストレスだとか、社会に蔓延る嘘だとか、そういう黒くて暗い部分の風刺的なニュアンスも含まれていたのかなと思う。
松たか子と小松菜奈が演じる霊媒師の「家族には優しくしろ」っていうセリフとか、登場人物それぞれが心のどこかで闇を抱えていて、そこに付け込むようにして「何か(あれ)」が襲い掛かってくるところとか、ちょいちょい現実の世界を皮肉った演出があったかなと。
あ、それとゴアとかグロが苦手な人は要注意。「何か」の攻撃手法がまさかの物理攻撃なんで、血しぶきパラダイスです。
口から大量にフィーバーしたり、腕がもげてフィーバーしたり、下半身が切断されてフィーバーしたりします。JACKPOT状態なのでそれ見て気分が悪くなりそうであれば避けたほうがいいかもしれない。
以上、何とも不思議なホラー映画の感想でした。
この文章だけじゃ何が何だか分からんと言う人は是非劇場へ。私の言っていることがきっと分かるはず。