コンビニにポテチを買いにいったらカッパにおしるこを買ってもらった話
もうかれこれ2年くらい前の話なんですが。
新居に越して間もないころ、ゲームをしていると無性に腹が減ってきまして。
そのとき時刻は22時過ぎ。もう我慢して寝てしまっても良かったのだけども、翌日も休みという解放感からちょっと外に出てみようという気になりまして。自宅の周辺の散策がてらコンビニを探してたんです。
そしたらセブンイレブン見つけまして。あっ、セブンあるじゃ~んってなって。良かったぁ、家の近くにコンビニあるのはポイント高~いってなって。
で、もうちょっと散策したいし腹ごしらえでもしようかねってなってポテチ買おうと思ったんです。ポテチ。
もう頭のなかはコンソメパンチでいっぱい。いますぐコンソメパンチを食べたい。口のなかはもうコンソメパンチの準備万端。そんなコンソメパンチ状態のさなか背後から突然、声をかけられた。
「オォーゥイィ!そこのにいちゃぁん!ちょっと待てぃ~」
酔っ払いだ。完全に酔っ払いだ。面倒なのに絡まれた。もう目がイッちゃってる。完全にキマっちゃってる。
さて、本来ならばここは無視して事なきを得るのが定石。逃げるべきというのが一般論。下手に関わらないのが正解。
でもなぜだろう。すごく惹かれる…!
うおぉぉぉ!どうする!どうする俺!関わったら確実に面倒なことになる!だけども目の前のオッサンから面白そうなハプニングのニオイがプンプンしている!うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!
なんですか?何か用ですか?
呆気なく好奇心に負けた男がそこにはいた。
これは仕方ない。いちブロガーとしてこんなおもしろイベントをスルーすることなんてできない。
どうやらオッサンは泥酔しているようで、木にもたれ掛かって呻いている。ちょくちょく呻きながら「にいちゃん、こっちゃこいこい。」と言っている。
念のため警戒しつつ少し観察してみたが、武装などしている様子はないから刺されたりすることはなさそうだ。というか周りに上着とかカバンとかが爆散していてむしろ無防備にもほどがある。
だがしかし安心するにはまだ早い。近付いてゲロでもぶっかけられちゃあ、たまったもんじゃない。ここはもう少し様子を見つつ……
「おう、あんな、おっちゃんはカッパやねんぞ」
え、なにそれちょっと詳しく聞かせて(一気に距離を詰める)
唐突なカミングアウト。
見た目はどこからどう見ても猪八戒なのに、自分はカッパだと名乗るオッサン。卑怯だ。こんなんもう無視できないじゃないか。初めて見るカッパに興味を持つなと言うほうが無理難題である。気付けばコンソメパンチのことなんかとっくに忘れて頭のなかはカッパのオッサンのことでいっぱい。
「あんな…。おっちゃんカッパの世界から追放されてん…。」
カッパのオッサンは攻撃の手を緩めることなくこう続けた。
なにやらオッサン、訳アリの様子。
「なんで追放されたかわかるか?なんでか言うたらな……キャバ嬢の名刺、嫁にバレてな…」
急に生々しいなオイ!!
なんだそれ。カッパであることを隠して人間界のキャバクラに行ったのか、カッパ界のキャバクラがこの近くに存在するのか。すげぇ気になるよ。
ていうかカッパの嫁さんなのか、人間とカッパの異文化結婚なのかとかいろいろ聞きたいこと出てきちゃったよオイ。この短時間での情報量が多すぎる。オッサン、ちょっと待って……
「ほんでな、帰れんわけよ。だからここでこうして東京タワー△#◎×?」
「ここんとこ財布が寒くてここがもう飲むなぁ?腹減ったなぁ?」
「あーーーーー!!!一念発起!!」
出典:デスノート
何言ってんだコイツ。熱が入れば入るほどに呂律も回らなくなり、いよいよ文法もおかしくなってきた。挙句の果てに叫び出すし。なんかちょっと怖くなってきた。
このご時世、どうやらカッパ界の経済事情も芳しくないらしい。それゆえこうして出稼ぎに出てこざるを得ないのだろう。くたびれたスーツからはなんとも言えない哀愁が漂っている。
カッパ界に日本経済の影響がどれだけあるんだかは知らないが、いつまでも川の中でのうのうとキュウリが流れてくるのを待つだけでは生きられなくなってしまったということなのだろう。なんとも世知辛い。
と同情しているうちにオッサンがまた静かになってきたので、そろそろお開きにしようか。そういえばポテチが食べたかったんだった。
いやはや、なんとも貴重な経験をした。まさか(自称)ホンモノのカッパと会話ができるなんて。
てことでオッサンに別れを告げると、仲良くなった印ということでオッサンが1杯、ご馳走してくれるらしい。お財布事情が厳しいカッパにたかるなんて気が引けてしまうが、気にせず1杯だけ付き合えというので、ここは無難に缶ビールをお願いした。
カッパと乾杯できるのなんて私か三蔵法師くらいのもんだろう。この短時間でこんなにも貴重な経験ができるなんて。私はなんてラッキーなんだろう。
「おう、またせたな!」
オッサンは意外と早く帰ってきた。
が、その手に握られていたのは、
ちょっとまて、おまえ『おしるこ』って。ウソだろ。
なにをどう間違えたらビールがおしるこになるんだよ。一文字もあってねぇしサイズ感も違うし、なんなら温度も全然ちがうじゃねぇか(ものすごくHOT)
しかもビールと間違えておしるこを買ってきた割には、自分用にしっかりワンカップを買っているあたり、このカッパめ、できる。
カッパ、帰宅命令が出る
しかし楽しい時間は長くは続かない。
「今はな、カッパはな、水道水で生きてんねん。全身で浴びるように飲むねん。」
その後もオッサンの軽快なトークが続いていたが、終わりは突然やってきた。
「あんちゃん、付き合ってくれてありがとな。満足したから帰るわ。」
おいカッパのオッサン大丈夫かよ。いま戻ったらやべぇんじゃねぇのか。
「嫁からはよ帰ってこいって。さっき買い物いってるときに電話きてな。メチャクチャ怒ってたわwww」
あ、さっきコンビニ入ってすぐにもぞもぞしてたのは電話してたからか。ていうかそれ笑ってる場合じゃねぇぞ。たぶん。
「あんな、いっつもここおるから。もうずっと毎日ここおんねん。だからまた一緒に△×#!?☆」
肝心な最後のほうが全く何言ってるか分からなかったが、カッパのオッサンはこの時間に毎日ここにいるらしい。
これは友人との待ち合わせに便利だ。渋谷ならハチ公像の前、新宿ならアルタ前、そしてここはカッパのオッサン前だ。
そうこうしているうちにカッパのオッサンは上機嫌で立ち去っていった。「帰るわ~!じゃ~な~!また明日~!」と言いながらコインランドリーに入っていった。おそらくあそこが異空間とつながるトンネルの役割を果たしているんだろう。
携帯を見ると時刻は23時。なんとこれまでの出来事はたった1時間のことだった。なんて濃密な時間だったのだろう。
そういえばさっきの『カッパは住民税を払わない』という話が途中だったはずだ。明日また会ったら続きを聞かせてもらおう。
という出来事を、今日ふと例のコインランドリーの前を通ったときに思い出した。
あれから2年。カッパのオッサンとは一度も会っていない。